はじめに
こんにちは、薬剤師のおちょおまんです。 今回は、新人薬剤師が避けては通れない「インスリンの服薬指導」についてです。
「使い方は知ってます」という患者さんでも、実は保管方法が間違っていたり、空打ちを忘れていたりと、確認すべきことは山ほどあります。 さらに、処方日数の計算ミスや、単位変更時の点数算定漏れは、薬局経営にも関わる重大なミス。今日はそんなインスリン指導の「落とし穴」を埋めていきましょう!

インスリンなんて、打つ単位を間違えなければOKなのだ。毎日同じだし、渡すだけの簡単なお仕事なのだ。

その油断が過誤に繋がるの! 『空打ち』分を計算に入れた? ランタスXRの例外は知ってる? プロならそこまで見るの!
【基礎】インスリンの保管は常温?冷蔵庫?懸濁と注射部位の3大指導ポイント
まずは基本の「き」。患者さんが自己流になりやすい3大ポイントです。
① 保管方法の「ビフォー・アフター」
・未使用(在庫): 必ず「冷蔵庫(2〜8℃)」。凍結は厳禁(冷気吹出し口付近は避ける)。
・使用中: 「室温」でOKです。逆に冷蔵庫に出し入れすると、結露して故障の原因になったり、冷たい薬液で痛みが出たりします。「開封したら常温」と覚えましょう。
② 白濁製剤は「振る」
ノボラピッドなどの透明な製剤は不要ですが、白濁した混合製剤や中間型は懸濁が必要です。
③ 打つ場所は「ずらす」
同じ場所に打ち続けると、皮膚が硬くなる「インスリンボール」ができ、薬の効きが悪くなります。
【デバイス比較】フレックスタッチとソロスターの違いは?患者に合わせた選び方
インスリン製剤は、薬の中身だけでなく「容器(デバイス)」もメーカーによって全く違います。 「手が小さい」「握力がない」「目が見えにくい」など、患者さんの身体機能に合わせて使い分ける視点を持ちましょう。
ボタンが伸びないデバイス
・代表:フレックスタッチ
・特徴:単位を合わせてもボタンが伸びません。バネの力で自動的に注入されるため、親指の力が弱い高齢者でも「軽い力」で最後まで注入できます。
・注意点:フレックスペンなどを使っていた患者さんは、「単位を回したのにボタンが伸びない! 壊れてる?」と勘違いしやすいので、事前の説明が必須です。
ボタンが伸びるデバイス
・代表:ソロスター、ミリオペン、フレックスペン
・特徴:単位を回した分だけ、ボタンが後ろに伸びます。自分で押し込む力が必要なため、高単位(40単位以上など)を打つ場合は、ボタンが伸びすぎて指が届きにくくなることがあります。
【販売終了】特殊な「置き時計型」イノレットの現状と代替案
・代表:イノレット
・特徴:キッチンタイマーのような独特な形状です。文字盤が巨大で、机に置いて安定して打てるため、視力が悪い方や手の震えがある方の「最後の砦」として長年活躍しました。
※現在は製造販売が終了しています。もし過去の薬歴で「イノレット使用」とあっても、現在は同じ薬剤の「フレックスタッチ」などに変更されているはずです。
【番外編】プレフィルドとカートリッジ(詰め替え)の違いと注意点
最近は「使い捨て(プレフィルド)」が主流ですが、たまに「中身だけ交換するタイプ(カートリッジ)」の処方が来ることがあります。これらは「ペンフィル」や「カート」と呼ばれ、専用の注入器にセットして使います。
・注意点1:注入器は捨てない
・注意点2:メーカーの互換性はない(ノボはノボペン、リリーはヒューマペン)
・注意点3:ひび割れチェック(ガラス製なので落下の衝撃に注意)
【日数計算】インスリンの「空打ち」分を忘れるな!調剤過誤を防ぐ計算式
調剤監査で最も多いミスの一つが、「空打ち」分を考慮していない日数計算です。
インスリンの空打ちとは?
針を取り付けた後、空気を抜き、針先から薬液が出るか確認する作業です。 多くの製剤で「毎回2単位」の空打ちが推奨されています。
日数が足りなくなる「計算の落とし穴」
例えば「ランタス 1日1回 10単位 28日分」という処方が出たとします。
・間違い: 10単位 × 28日 = 280単位 必要
・正解: (10単位 + 2単位) × 28日 = 336単位 必要
この「+2単位」を忘れた本数で渡すと、薬の不足が発生してしまう可能性があります。
【例外】なぜ「ランタスXR」だけ空打ち3単位?理由と計算時の注意点
ここで一つ、見落としがちな「例外」を紹介します。 多くのインスリン製剤は「空打ち2単位」が基本ですが、「ランタスXR注ソロスター」は「空打ち3単位」と決められています。
・理由:ランタスXR(300単位/mL)は濃度が濃いため、「2単位」しか空打ちしないと確認不十分の恐れがあります。
ランタスXRの計算をする時は、「+3単位」を条件反射で思い出してください!
インスリンの単位変更で算定できる「特定薬剤管理指導加算1」の要件と指導例
医師の指示で「10単位から12単位へ増量」など、投与量が変更になった場合。 ただ「増えましたね」と渡すだけではもったいない! ここは「特定薬剤管理指導加算1」の算定チャンスです。
特定薬剤管理指導加算1(10点or5点)
インスリンは「ハイリスク薬(特に安全管理が必要な医薬品)」に分類されます。「特定薬剤管理指導加算1」として算定します。初回と用法・用量変更時に算定できます。
特定薬剤管理指導加算1イ(10点) 初回処方時
特定薬剤管理指導加算1ロ(5点) 用法・用量変更時
算定するための指導内容
単に渡すだけでは取れません。単位変更時こそ低血糖や手技の再確認などを行い、薬歴に残すことで堂々と算定できます。
「単位変更=リスクの変化」です。ここをフォローするのが薬剤師の腕の見せ所であり、点数に繋がるポイントです。
【まとめ】
・開封後のインスリンは「室温保存」が基本。
・日数計算は空打ち分「+2単位」で行う。ランタスXRは「+3単位」なので注意!
・単位変更時は「特定薬剤管理指導加算1」の算定チャンス。
参考資料
https://www.jds.or.jp/uploads/files/education/insulin_glp-1_list_2024.pdf
注射製剤一覧表:インスリン製剤
https://pro.novonordisk.co.jp/content/dam/hcp-plus/jp/ja/documents/products/novorapid/Novorapid_Innolet_JP20DI00280.jpg.coredownload.inline.jpg
イノレット製剤写真
https://kirishima-mc.jp/data/wp-content/uploads/2023/04/4499a6ae2ca9952d3a70c63d74443d8b.pdf
霧島市立医師会医療センター薬剤部DIニュースNo.204 新しい持効型インスリン製剤ランタスXRソロスター
https://www.nanzando.com/products/detail/78891
山口路子「速解! 調剤報酬2024-25」(南山堂) 92-93P
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