こんにちは、薬剤師のおちょおまんです。
産婦人科の処方箋でバイアスピリンを見かけたとき、新人さんは「え、妊婦さんにアスピリンって禁忌じゃなかったっけ?」と一瞬焦るかもしれません。実は、不育症や習慣流産の治療において、低用量アスピリン療法(LDA)は赤ちゃんを守るための非常に重要な役割を果たしています。
今回は、臨床現場で必須となる用語の整理から作用機序、そして明日誰かに話したくなるような薬の歴史をまとめて整理しました。知識の引き出しを増やしていきましょう。

大変なのだ!妊婦さんにバイアスピリンが処方されているのだ。禁忌なのだ!ズバッと疑義紹介なのだ!!

あんたねぇ、それ低用量アスピリン療法(LDA)っていうガチの治療だから!不育症を防ぐために使ってるの。まずは用語の定義からビシッと整理していくよ!
妊婦にバイアスピリンは禁忌?不育症と不妊症の違い
産婦人科領域では似た言葉が多く使われますが、フェーズによって意味が全く異なります。まずはここを整理しましょう。
・不妊症:妊娠そのものが難しい状態(着床前の悩み)
・不育症:妊娠はするが継続が難しい状態(妊娠後の悩み)
・反復・習慣流産:流産を繰り返す回数の呼び名(2回=反復、3回以上=習慣)
・抗リン脂質抗体症候群(APS): 血液中に抗体があることで血栓ができやすく、不育症の原因となる体質
アスピリンが活躍するのは、主に妊娠を維持する段階である不育症の治療です。特にAPSの患者さんでは、胎盤に血流トラブルが起きやすいためアスピリンが必須となります。
アスピリンが効くのはどれ?不育症の原因とAPS
不育症には主に4つの原因がありますが、アスピリンが直接関わるのは4つ目の凝固因子異常です。
①子宮形態異常:子宮の形に特徴があり、赤ちゃんの成長スペース確保が難しい状態
②内分泌異常:甲状腺疾患や糖尿病など、ホルモンバランスが妊娠維持を妨げる状態
③染色体構造異常:受精卵の成長過程で染色体の過不足が生じやすい状態
④凝固因子異常:血液が固まりやすく、胎盤に血栓ができて栄養を止めてしまう状態
この凝固因子異常には、APS、プロテインS欠乏、第12因子欠乏などがあります。実際の臨床現場ではこれらすべてに対してアスピリンが使われることがありますが、生児獲得率を向上させるという明確なエビデンスが確立されているのは、抗リン脂質抗体症候群(APS)のみです。それ以外のタイプについては、現時点では施設や医師の判断による経験的な投与という側面が強くなります。
不育症治療でなぜバイアスピリン?血小板を阻害する作用機序と低用量の根拠
なぜアスピリンが不育症に選ばれるのか、その薬理学的な理由を深掘りします。
・不可逆的な阻害作用
アスピリンは血小板の酵素(COX-1)を不可逆的に阻害します。一度アスピリンがくっつくと寿命が尽きるまで血を固める力を失います。これが胎盤の血流を守る鍵となります。
・アスピリンジレンマ(パラドックス)の真実
かつては量を増やすと血管を広げる良い成分まで抑えてしまい、効果が弱まるという理論がありました。しかし、現在の臨床ではこのジレンマはほぼ無視して良いとされています。低用量で使う真の目的は、ジレンマ回避ではなく、胃腸障害などの副作用を最小限に抑えつつ血栓を防ぐためです。
妊娠35週で休薬する理由は?バイアスピリンの服薬指導
不育症治療におけるアスピリンの使用には、特有のルールがあります。
・ヘパリンとの併用がゴールドスタンダード
APSの患者さんに対しては、アスピリンとヘパリンを併用することで、生児獲得率が有意に向上することが確立されています。
・35週で休薬する理由
分娩時の出血リスクを抑えるため、多くの施設では妊娠35週から36週頃に服用を中止します。お薬手帳を確認し、出産予定日が近い患者さんには休薬指示が出ていないか確認しましょう。
・アスピリン喘息の確認
初回交付時には、過去に痛み止めでゼーゼーしたことがないかを必ず確認してください。アスピリン喘息のメカニズムはアレルギーではなく代謝のバランス崩壊であるため、非常に重要なチェックポイントです。
不育症以外にも?妊娠高血圧(HDP)予防での活用
低用量アスピリンの活躍の場は不育症(胎児の維持)だけにとどまりません。現場で「不育症じゃないのになぜ?」と疑問に感じた際、以下の視点を持っていると監査の助けになります。
・妊娠高血圧症候群(HDP)の予防
高リスク群の妊婦さんに対し、胎盤の血管が作られる初期段階(12週から16週頃)から服用を開始します。血圧を下げるためではなく、血管の質を根本から改善して発症そのものを防ぐ予防としての役割です。
・不妊治療における着床不全のサポート
体外受精(IVF)などの過程で、子宮内膜への血流を改善して着床しやすくする目的で使われることがあります。これについては大規模なエビデンスはまだ不十分とされていますが、医師の判断で補助的に処方されることがあります。
なぜバファリンは81mg?バイアスピリンとの違いと経過措置
最後に、少し視点を変えて製剤の歴史に触れてみましょう。なぜバファリン配合錠A81のようなキリの悪い81mgという数字が存在するのでしょうか。
・81mgの正体はヤード・ポンド法に基づくグレーンという単位
81mgという数字( バファリン配合錠A81など)は、ヤード・ポンド法における質量の単位であるグレーンに由来しています。かつてアメリカでのアスピリン1錠の標準量は5グレーン(約325mg)でした。小児量が、その1/4の量1.25グレーンであり、これをミリグラムに直すと約81mgになります。
現在ではライ症候群のリスクから小児への使用は制限されていますが、製剤の「規格」としての81mgという数字だけが、低用量アスピリン療法(抗血小板療法)に転用され、現在まで生き残っています。
・100mgはメートル法
100mg(バイアスピリンなど)は、ヨーロッパを中心としたメートル法に基づいたキリの良い数字として設定されました。どちらも血小板に対する作用に大きな差はありません。
・バファリンA81の経過措置
長年親しまれたバファリン配合錠A81は、2026年3月末で経過措置が終了します。メーカーから代替品として案内のあるバイアスピリン錠100mgや同一成分のバッサミン配合錠A81などへの切り替えが必要になるため、現場での案内準備を進めておきましょう。
【まとめ】バイアスピリン(LDA療法)で妊婦を守る
・ 不妊症(妊娠前)と不育症(妊娠後)を明確に区別して理解する
・ アスピリンは血小板を不可逆的に阻害して胎盤の血流を守る
・ エビデンスが確立されているのは、APSに対するヘパリンとの併用療法である
・ HDP予防や着床サポートなど、活用の幅は非常に広い
・ 35週前後の休薬スケジュールを患者さんと共有し、安全な出産をサポートする
参考資料
http://boseinaika-gakkai.kenkyuukai.jp/images/sys/information/20190204143451-4B2EBC6C57C8F0010F436B277CEE05A90F1E4FB27B40462C30694A4C9A9B9D1C.pdf
抗リン脂質抗体症候群合併妊娠の診療ガイドライン
https://www.nms.ac.jp/hosp/section/female/guide/_24735/cure002/cure001.html
低用量アスピリン療法 日本医科大学付属病院
https://www.takeshita-lc.com/wp-content/themes/takeshita-lc.com/images/under/treatment_aspirin.pdf
不育症とアスピリン療法 竹下レディスクリニック
https://pharmacist.m3.com/column/ninpu_kinki/6449
バイアスピリン®の使い方を知ろう。妊娠高血圧症候群と不妊治療の最新知識
https://www.mcl.baby/news/column030
不育症(反復流産・習慣流産)について 院長コラム#030
http://jpn-rpl.jp/join/about-rpl/
不育症について 日本不育症学会
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/yamamoto/201410/539036.html
アスピリンジレンマは存在しない?
http://hospital.tokuyamaishikai.com/wp-content/uploads/2020/08/0e14e8f55794eefd3ad920ebd10953dd.pdf
徳山医師会病院 薬局 DIニュース アスピリンについて
https://www.gifu-upharm.jp/di/mguide/salesupply/2g/ss1646172409.pdf
製品販売中止の事前のご案内

コメント